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月之逃亡者的笼子/第六话

来自东方维基
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第 118-137页
< 第五话   月之逃亡者的笼子   第七话 >
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愚者の封書 愚者的封书
  月の都の空は昼間でも暗い。永遠に夜が明けないのではないかと思う。いや明かりを点けなくても見えるのだから、暗いというのは正確ではないかも知れない。空が黒いと言うべきだろう。   月之都的白天也很昏暗,给人夜晚永远不会结束的感觉。不,因为即使不点灯也能看得清,所以用昏暗来形容也许并不正确。应该说天空是黑色的才对吧。
  そもそも、宇宙とは暗いものなのだ。その宇宙空間に浮かんだ天体の空も、本来ならば暗くて当然である。   宇宙本来就是一片漆黑的。在宇宙中漂浮的天体,天空呈黑色也是理所当然的。
  太陽の光を受けている全ての星で、昼間の空が青く明るい訳ではない。太陽の光は青くないし、勿論地上を覆う大気も青くはない。   在受到太阳光照射的行星上,白天的天空也不全都是明亮蔚蓝的。太阳光不是蓝色,覆盖大地的大气当然也不是蓝色。
  では何故地上の空はあそこまで青いのだろうか?   那么为什么地上的天空会那样蓝呢?
  それは大気が屈折しやすい波長の短い可視光線、つまり紫から青色の光を拡散させ、空を青く見せるのである。大気が丁度、空を青く見せる程度の厚みを持っていたからそう見えるだけなのだ。もう少し大気が厚ければ青色の光は拡散しきってしまい空は赤くなる。地上でも空が赤くなる事もあるが、人間は空が見られる時間帯から、夕焼け、朝焼けと呼んでいる。   那是由于容易被大气折射的短波长可见光线、即从紫色到蓝色的光被扩散,使得天空看起来呈现蓝色。只是因为大气的厚度刚好使得天空呈蓝色的缘故。如果大气层再厚一点,连蓝色光都被扩散的话,天空就会变成红色。虽然地面上也有天空变成红色的时候,不过人类根据其出现的时间,将其称为晚霞和朝霞。
  さらに大気が分厚くなると赤い光も拡散し、ついには地上に光の届かない夜の星となるだろう。反対に大気が薄ければ光は真っ直ぐ届き、光源以外の空は黒いままとなるのだ。   大气更厚的话红光也会扩散,地上最终会变成光线无法到达的夜之星吧。与此相反,大气稀薄的话光线会直接穿透,光源以外的天空会保持黑色不变。
  月の空は後者であった。その黒い昼間の空が今日は色鮮やかな星空を見せていた。   月空便是后者。那漆黑的白昼之空,今天也鲜明地显现出星空。
 
「——『スターダストレヴァリエ』」 “——「星尘狂欢」——”
  目の前の黒い人間は宙に飛び上がり何かを叫んだ。   眼前的黑色人影飞上天空喊着什么。
  何で出来ているのか判らない星形の物体は、依姫様の動きとは関係無く無造作に宙を舞った。   不知是什么做成的星形物体,与依姬大人的行动毫无关系的在空中到处乱飞。
  相手を見ないでばらまく攻撃など怖くはない筈だ。言うなれば子供が腕を振り回しながら相手に突進している様なものである。   再没有比无视对手的胡乱攻击更可怕的了。说起来就像小孩子乱挥着手臂朝对手冲过去一样。
「ねぇ、あの星って当たっても痛く無さそうだけど……」 “呐,就算被那星星打中好像也不痛不痒的说……”
「痛くなくても当たればミスみたい。だから華麗にかわすのよ」 “即使不痛,被打中也算是失误,所以才要华丽的闪避啦。”
「へぇ。なら弾数が多い方が有利なんじゃない?」 “哎。那么弹数多的—方比较有利吧?”
「多分、同時に出せる弾数に限界があるのよ。エネルギー保存の法則だか、エントロピー増大だかなんだか知らないけど……」 “能同时放出的弹数好像有限制的。不知道是能量保存法则还是熵增大什么的……”
  月の兎達が他愛のない会話を繰り広げている。段数に限りがあるのはエコロジー対策の為なんじゃないかと思う。それにしては一発でも当たれば良いというには十分すぎるほど大量にばらまいているが……。   月兔们进行着稀松平常的对话。我觉得弹数有限制也许是生态学的对策。话说回来,这还真是即使有一发会打中也毫不奇怪的庞大数量呢……
  依姫様はカラフルな銀河を何の問題もなくかわしていた。まるで雨の中を泳ぐ天女のように身軽に、地上を駆ける兎のように機敏に身をこなしていた。   依姬大人轻而易举地躲过了五彩缤纷的银河,就像在雨中游泳的天女一般轻快,在地上奔跑的兔子一样敏捷。
  月の兎達は見事な依姫様の戦いぶりに勝利を確信し、興奮して騒いでいた。誰しも自分が表に出て自分が目立ちたいと思っている様だった。さっきまでは吸血鬼に怯えて逃げていた月の兎達も、圧倒的な強さを見せる依姫様の神気に当てられて[1]、自分でも勝てるに違いないと思い込んでいるのだろう。   月兔们从依姬大人的精彩表现中确信胜券在握,兴奋地骚动起来。所有人都争先恐后地想表现得更显眼一些。即使是刚才还被吸血鬼吓得四散奔逃的月兔们,沐浴在展现出压倒性强大的依姬大人的神气中,大概也会误以为自己也肯定能打赢吧。
  しかし私にあの攻撃をかわす事が出来るだろうか?   可是,我能够躲过那个攻击吗?
  地上の人間は脆く弱いと聞いていたが、はてさて目の前の人間は自分には手に負えない程、強そうに見える。依姫様は余裕を見せているが、万が一何かあった時は私が矢面に立つ事になるのだろうか? そんな事があれば月の都は侵略されてしまうのだろうか?   虽然听说地上人很脆弱,但是眼前的人看起来却远远强过自己。尽管依姬大人表现得绰绰有余,可要是有个万一时,我能够挺身而出吗?要是发生那种事,月之都会被侵略吗?
「流れ弾に気を付けな!」 “小心流弹!”
  人間が何かを叫んだと思った次の瞬間、大きな星形の物体が耳を掠めていった。髪がそよぐ。   在人类似乎喊出什么的瞬间,巨大的星形物体从耳边掠过。头发微微摇动。
  遠くで見ていた時は光か熱の塊かと思っていた星だが、想像と違い質量を感じた。背筋に冷たい汗が流れた。   从远看以为是光热聚合体的星星上,感觉到出乎意料的质量,让人后背直冒冷汗。
 
  そもそも、何故私がこんな殺伐とした戦いの前線にいるのだろう。   说起来,我为什么会在这杀气腾腾的战斗前线呢?
  私は元々歌を歌い、餅を搗いて毎日暮らしていた。退屈だが平和な毎日だった。昼間は餅を搗き続け、夜はお酒を呑みながら将棋をしたりしていた。あの頃が懐かしい。   我原本过着唱歌、捣年糕的每一天。那是无聊而和平的每一天。白天捣年糕,夜里边喝酒边下将棋。那个时候真让人怀念。
  ちなみに餅搗きというが実際に臼の中で捏ねられている物は、餅ではなく薬である。蓬莱の薬と呼ばれる不老不死の薬を作ろうとしているのだ。   顺带一提,虽然说是捣年糕,不过臼中的东西不是年糕而是药。我们在制作的是被称为蓬莱之药的不老不死之药。
  その真意はよく判らない。私達月の兎にはただ薬を搗き続ける事しか教えられていない。   其真相不得而知。我们月兔们只是被命令一直捣药。
  その餅搗きは捕らえられている嫦娥 (じょうが) 様の贖罪の為だと教えられている。つまり、我々月の兎は自分に何の利点もない餅搗きを毎日やらされていたのだ。しかもいつ終わるとも判らないのである。既に何千年か続いている餅搗きだが、何も進展した感じはしない。もう周りの仲間にとっても餅搗きはただの意味のないルーチンワークと化していた。   捣年糕一事听说是为了被抓住的嫦娥大人所做的赎罪。也就是说,我们月兔被命令每天去做对自已亳无好处的捣年糕。而且就连什么时候能结束都不知道。虽然捣年糕已经持续了几千年,但是却感觉不到任何进展。对周围的伙伴来说,捣年糕已经只是毫无意义的例行公事。
  私は他人の罪の為に永遠と搗き続けるのが嫌だった。何の達成感もなく、頭を使う事も許されずただ体を動かすだけの仕事。生活に困る事は無いが建設的ではないし、頭を使う事も無い。そんなのは最下層の仕事だと思っていた。   我不想为了他人的罪过永远捣下去。没有任何成就感,也不允许思考的单纯体力劳动。虽然衣食无忧,不过既毫无建设性,也不需要动脑。我认为那属于最底层的工作。
  だから、私は逃げ出した。   所以我才逃了出来。
  兎にだってもっと自由があってしかるべきだと。自分達はもっと高い能力を持っている筈だと、そう考えていた。今から思えば、自分は高い能力を持っているが環境がそうさせないと思っている者は、大抵何も出来ない奴である。私は典型的な愚か者だったのだろう。   即使是兔子,也应该拥有自由。自己应该拥有更高的能力才对,我总这样认为的。现在回想起来,认为自己拥有更高的能力,只是环境所限无法发挥的人,大都是什么也做不到的家伙。我就是典型的愚者吧。
  愚かな私は建設的な仕事じゃなければ、逃げ出す事の方が善だと言い聞かせていた。自分を上手く使えない社会の方が間違っているんだと考えていた。勿論、逃げ出している間、心の平穏を保つ為の言い訳である。   愚蠢的我告诉自已如果不是建设性的工作,逃走会比较好。认为是无法好好利用自己的社会有问题。当然,那是逃跑期间为了保持内心平稳的说辞。
  しかし、逃げ出してもそのまま狭い月の都に居てはすぐに捕まってしまうだろう。   可就算逃出来,留在狭小的月之都里也会很快被抓住。
  私は逃げ出すのは仕事だけではなく、月の都からも逃げなければならなかった。私は迷わず穢れた地上へ逃げる事にした。前に地上に逃げ出した同胞が居たので、その後を追おうと思ったのだ。   我要逃离的对象不单是工作,也必须逃出月之都才行。我毫不犹豫地逃向污秽的地上。因为之前有逃到地上的同胞,所以我打算步其后尘。
 
  ——大きな歓声が上がった。   ——响起了巨大的欢呼声。
  どうやら、人間が大技を使ったが依姫様が余裕で返し、依姫様の勝利が確定したらしい。依姫様は大きな神の鏡を掲げ、文字通り神々しく光を反射していた。   似乎是人类使用了别的招式,但是依姬大人却轻松地挡回,已经稳操胜券。依姬大人举起巨大的神镜,如字面意思般反射出神圣之光。
「あーあ。依姫様ももう少し手加減してくれればいいのにねぇ」 “啊啊。依姬大人要是稍微手下留情就好了。”
  隣の兎が話しかけてきた。私が状況を理解できずに慌てていると「このままじゃ私達の出番が無いもんねぇ」と付け加えた。   一旁的兔子朝我搭话道。我搞不清楚状况,有点狼狈,对方只补充说:“这样下去,就没有我们出场的份了。”
  私は溜め息を吐いた。さっきは地上の吸血鬼に怖じ気づいて逃げたくせによく言ったもんだ、と呆れながら「ほんとだわ。私も折角訓練した意味が無いわ」と返しておいた。でも多分負ける。   我叹了口气。刚才明明害怕地上的吸血鬼落荒而逃,这种话居然也说得出口。可我还是这样回答:“就是啊。我难得接受的训练也没有意义了。”不过多半会输就是了。
  恐らく私以外の兎も口では強気だが、同じ様に考えているのだと思う。そう、やれば出来るがやるチャンスが無いと思っている輩は、チャンスが来ても出来ない。チャンスを呼び寄せる力も無いのだろう。   除我之外的兔子们虽然嘴上逞强,但应该在考虑相同的事情。没错,认为能做到但是没机会的人,就算有了机会还是做不到。大概连呼唤机会降临的力量都没有。
「貴方達、流れ弾に当たらなかった?」 “你们没有被流弹打中吧?”
  依姫様が涼しい顔をして戻ってきた。   依姬大人一脸轻松地回来。
「お見事でした、まだまだ余裕そうですね」 “真是精彩,看起来很轻松呢。”
「油断はしてはなりませんが、余裕が無いと戦いは危険です。貴方達は余裕が無いのに油断しているように見えますがね」 “虽然不可大意,但是没有余力的战斗是危险的。你们明明没有余力,却显得很大意呢。”
「またまたぁ、あの位の人間だったら一瞬でけちょんけちょんですよぉ」 “您别谦虚了。那种程度的人一下子就能打得落花流水。”
「全く、それが油断なのです」 “真是的,那就叫作大意。”
  依姫様は呆れた顔をした。   依姬大人露出无奈的表情。
「さて、次はあの吸血鬼みたいね。ま、一番簡単に勝てそうですが……ところで貴方」 “那么,接下来是那个像吸血鬼的。嘛,看起来是最容易打赢的……对了,你……”
  依姫様が私の方を向いた。私は緊張した。もしかして、次の吸血鬼戦は私にやれと言うつもりなのだろうか?   依姬大人朝我看去。我顿时紧张起来。难道说,她准备让我接下来与吸血鬼对战吗?
「いやいや、私にはとてもとても」 “不、不,我实在是……”
「何の話? まあ良いわ。貴方にはやって欲しい事があります」 “你在说什么?算了。有件事希望你能去做。”
  そういって、私に耳打ちした。   她这样对我耳语道。
「え? そのような重要な役を私にですか?」 “哎?交给我那种重要的工作吗?”
「血の気の少ない貴方にぴったりでしょう? さあ、お行きなさい、時間も余りないかも知れません。本当は私がやろうと思ったのですが、思ったより地上の者達が強かったので間に合いそうにないので……」 “对无精打采的你正合适吧?好了,快去吧。也许没什么时间了。虽然我本打算自己去做,不过地上人比想象的要强,看来是来不及了……”
 
  三、四ヶ月ほど前になるだろうか、私が餅搗きが嫌になり月の都を飛び出し地上へ逃げたのは。   大概是三四个月之前的事,我厌倦了捣年糕逃出了月之都。
  地上には我々の仲間が居る筈であった。それと指名手配された罪人も……。   地上应该有我们的同伴在。还有被通缉的罪人也……
  月の都に住んでいる時は余り用のない月の羽衣。それは空を自由に飛べる様になる不思議な羽衣なのだが、付けると同時に心を失わせる力を持っている。つまり、自由が利かなくなってしまうのだ。   月之羽衣在月之都时没什么用处。那是能够在空中自由飞翔的不可思议的羽衣,但是穿上的同时会失去心的力量。也就是说,会变得无法自由行动。
  私はそれを取り出し、地上に向けて飛び出した。地上に辿り着くまでの数日間、記憶が曖昧である。   我取出那个,朝地面飞去。在到达地面前的数日里,记忆变得暧昧。
  この羽衣は、地上から月人を呼び戻す時、未練が残らぬように着せる物だという。その昔、地上に幽閉されたかぐやという姫がいた。その姫を月に呼び戻そうとした時にその月の羽衣が使用される……筈だった。   这羽衣是从地面召回月之民时,为了不留下眷恋而穿的衣服。从前,曾有过被幽禁在地上、名叫辉夜姬的公主。在将那位公主召回月亮时使用了月之羽衣……据说是这样。
  詳細は判らないが何故かかぐや姫は月に戻る事を拒絶し、それと同時に月の賢者が一人地上に取り残される事となった。姫と賢者の消息は千年以上も不明だが現在もなお指名手配されている……という事になっている。   详细情况不明是因为辉夜姬不知为何拒绝回来。她和一名月之贤者最后被留在地上。公主和贤者消息不明已经超过千年,现在仍然被通缉中……事情就是如此。
  というのも、捜索隊のリーダーである豊姫様と依姫様に捕まえる気が無いからである。その事は月の都の者達もうすうす感づいていた。しかし、特に月の都に害を為すという訳ではなかったので暫くすると皆から忘れ去られる様になった。   话虽如此,其中也有领导搜索队的丰姬大人和依姬大人不打算抓人的缘故。那件事月之都的人们也略有察觉。不过因为并未危害到月之都,不久之后大家也就都忘了。
  しかし私が逃げ出す少し前から、何やら不穏な噂が流れる様になった。それは、月の都で謀反を企んでいる者が居るのではないか、という噂である。その容疑者として地上にいる罪人、八意様の名が上がってきたのだ。   可是在我逃走之前,有某种不安的传闻开始流传。那是“月之都里好像有企图谋反的人存在”这样的流言。作为嫌疑者,留在地上的罪人——八意大人的名字浮出水面。
  何故、その様な噂が流れ出したのであろう。後から依姫様に聞いたところ、何処かに月に住む神々を正式な手順を踏まず呼び出す者がいるからだという。   为什么会有那样的流言传出呢?后来询问了依姬大人,说是因为在某个地方有着不沿用正规的流程召唤出住在月上的众神的人。
  実は一番疑われていたのは神様を自由に呼び出せる依姫様本人であり、それと同時に指名手配されているのに何故か捕まえられない八意様も疑われたという訳である。   实际上最受怀疑的是能够自由地召唤神明的依姬大人本人,同时被通缉却不知为何无法抓获的八意大人也被怀疑了。
  その疑いは漸く晴れそうである。地上から攻めてきた吸血鬼一味の中に居た一人の巫女。その巫女が神様を呼び出していた犯人である事が判ったからだ。   那怀疑似乎在渐渐得以澄清。因为从地上攻来的吸血鬼集团中有一名巫女,而那个巫女被证实就是召唤神明的犯人。
  地上と月を結ぶ箱船に住吉三神を呼び出す。どうやらそれが月の都で流れた不穏な噂の元だったのだろう。   在连接地上和月亮的箱船中召唤住吉三神[2]。看来那就是月之都流传的不安流言的源头。
  実は、その巫女と私は初対面ではない。噂が流れ始めた頃に一度だけ、地上で会った事があるのである。   其实,我和那名巫女并不是初次见面。在流言开始出现时,我们曾在地上有过一面之缘。
  初めて辿り着いた地上は噂で聞くほど荒廃した場所でもなく、美しい木々に囲まれた優しい場所であった。   初次到达的地上并不是如传闻中一般的荒芜之地,而是被美丽的树木包围的秀美之地。
  長旅の疲れか、それとも途中でスペースデブリに一撃を喰らったからか判らないが、私は辿り着くなり気を失ってしまった。その時介抱してくれたのがその巫女である。   不知道是因为长途劳累,还是途中挨了太空垃圾一下的缘故,我一到那里就昏了过去。那时照顾我的就是那名巫女。
  その時は月侵略を企む張本人だなんて事は思いもよらなかった。   那时我完全没想到她就是妄图侵略月亮的始作俑者。
  神社で寝ていると、どこからともなく私を呼ぶ声がした。地上では使わない筈の言葉を使い、私を呼ぶ声。私は同胞であると確信し、神社を出た。   我在神社睡觉时,听到不知何处传来呼唤我的声音。那是用地上没有的语言呼唤我的声音。我确信那是同胞发出的声音,于是走出了神社。
  同胞、つまり私と同じく月から逃げた月の兎である。しかし、その声の主は予想と違った。指名手配されている賢者、八意様であった。   同胞,也就是和我一样从月亮逃出来的月兔。可那声音的主人和预想的不同,是被通缉的八意大人。
  その瞬間から私の旅の行く末は予想もしていなかった方へ動き始めたのだ。   从那个瞬间开始,我的旅行结局开始朝着从未想过的方向转动。
  私は再び月の都へ戻ることを余儀なくされた。しかし再び餅搗きの職に戻る事はなかった。自分の我が儘で逃げ出したのだから仕方が無い。餅搗きの代わりに私に課せられた仕事は、月の防衛隊員であった。   我不得不再次回到月之都。不过我并未重新去捣年糕。因为是我自己擅自出逃,所以那也没办法的。我被安排的工作,是月亮的防卫队员。
  月の使者と呼ばれ、月を守り、地上を見張る防衛隊。綿月姉妹はそのリーダーであった。私は依姫様の元で戦闘の仕方から、作法、常識など様々な事柄を学んだ。   防卫队被称呼为月之使者,负责保护月亮、监视地上。绵月姐妹是负责人。我在依姬大人身边学习从战斗方法到礼法、常识等各种事情。
  妹の依姫様は私の他の兎にも稽古をつけている。と言っても、兎の人数は十にも満たない位の少人数である。みんな実戦の経験が浅く、強さを見ても私と大差ないと思う。   妹妹依姬大人还在训练其他兔子。话虽如此,兔子的人数也少得不到十人。大家都没什么实战经验,从强弱来看都和我差不多。
  実際に戦う事は殆ど無いのだが、依姫様の稽古は厳しく、怠けていたりするときついお仕置きが待っている。依姫様は常に危機感を持ち、八意様の意思を継いで月の都で役に立とうと考えているようである。   虽然实际上几乎没有战斗,但依姬大人的训练却很严格,要是偷懒会被严厉惩罚。依姬大人时刻保持着危机感,继承八意大人的意志想要为月之都做出贡献。
  対照的に姉の豊姫様は普段は本を読んだり散歩をしたり、一人で自由に生活しているようだ。稽古の休みの日だけ、私達兎の前に現れて『一緒に稽古しましょう』と言って、今日の稽古は休みだと言うと残念そうに去っていくのである。恐らく稽古する気は無いのだろう。   与此形成对照的是姐姐丰姬大人,平时或是读书或是散步,一个人过着自由的生活。她只会在训练休息日出现在我们兔子面前,说“一起训练吧”,听到我们回答今天休息后显得很遗憾地离开。她恐怕根本没打算训练吧。
  そんな豊姫様だが、兎達の中では人気が高い。特に厳しい事を言う訳でも無いし、頭の回転が速く、学があるから話が面白い。なにより、稽古中に内緒で桃やお菓子など差し入れしてくれるのだ。   虽然丰姬大人那个样子,但是在兔子们之中却人气很高。她态度和蔼头脑聪明,因为学识渊博,说话也很有趣。最重要的是,她会在训练中悄悄带来桃子和点心等礼物。
  結局、吸血鬼部隊と戦いに出たのも依姫様と兎達だけだった。今頃、豊姫様は何をしているのだろうか。こんな一大事でも本を読んだり歌を歌ったりしていそうなお方である。戦闘は依姫様に任せれば大丈夫という事なのだろう。   结果,和吸血鬼部队战斗的也只有依姬大人和兔子们。丰姬大人现在在做什么呢?她是在如此重要的时候似乎也会读书唱歌的人。她大概觉得把战斗交给依姬大人就行了吧。
 
「——ただいま帰りました!」 “——我回来了!”
  依姫様に重要な仕事を授かった私は、地上からの侵略者との戦線を離脱し、月の都の綿月の屋敷に戻った。   我被依姬大人指派重要的工作,脱离和地上侵略者战斗的战线,回到月之都绵月的住所。
  当然、屋敷はガランとしており、いつもは訓練している兎達の姿も無かった。当然、全員依姫様と共に出陣しているのである。   房子当然是空无一人,也没友平时在训练的兔子们的身影。所有人都和依姬大人一起出阵了。
  館を一通り探してみたが豊姫様の姿も見当たらない。何処に行っているのだろう? 最初はてっきり、依姫様と一緒に行動するもんだと思っていたのだが、依姫様は豊姫様に声を掛ける事もなく出陣した。   我在屋内转了一圈,也没发现丰姬大人的身影。到底上哪去了?一开始我还以为她在和依姬大人一起行动,不过依姬大人没有通知丰姬大人就出阵了。
  兎達の戦闘や、勉学、作法の稽古はいつも依姫様がつけてくれる。侵略者が現れた今回みたいな一大事だというのに、一体何をしているのだろう。依姫様もみんなも何も言わない所を見ると、それがいつもの事なのだろうか。   兔子们的战斗、学习、礼法的训练一直都是依姬大人在负责。明明像这次出现侵略者是非常严重的事,她究竟在干什么啊?她看到依姬大人和大家什么都没说,就以为和平常一样吗?
  依姫様の部屋の前に着いた。   我来到依姬大人的房间前。
「し、失礼します」 “打、打扰了。”
  誰も居ないと判っていたが、一応声を掛けて戸を開けた。いつもは緊張して入りにくい依姫様の部屋である。個別に呼ばれる事があるとしたら、大抵は辛い話だからだ。   虽然知道没有人在,我还是先打了招呼后才打开房门。依姬大人的房间总让人感到紧张、难以接近。因为如果被单独叫来的话,大多不是什么好事。
  依姫様の部屋に辿り着くとすぐさま紙と筆を取り出した。   我一进依姬大人的房间就马上拿出来纸笔。
「えっと……『お久しぶりです。元気してます?』いや、そんな軽いノリで良いのかなぁ」 “那个……‘好久不见。你还好吗?’,不,这么随意行不行啊?”
  依姫様から頼まれた仕事とは、八意様に向けての手紙の代筆であった。   被依姬大人拜托的工作,是作为代笔给八意大人写信。
「流石に依姫様の代わりに私が書くのは無理があるわ。字だって上手くないし……しょうがない、依姫様がお忙しいので代わりに私が書いたと最初から書いておこうっと」 “要我代替依姬大人来执笔实在是做不到。我字也写得不好……没办法,一开始就写上因为依姬大人很忙,所以由我来代笔好了。”
  私は、自分の言葉で八意様にお礼と経過と現状を報告する事にした。   我用自己的话向八意大人道谢并对现状做了报告。
  地上でお会いした時に思った事、八意様の手紙は無時に綿月様の元へ届ける事が出来た事、そのお陰で月の都から逃げ出した事を問われる事もなく、綿月家に住み込みで働いている事……。   在地上见面时所想的事,八意大人的信得以平安抵达绵月大人处的事,拜此所赐没有被研究逃出月之都的责任,在绵月家住下工作的事……
「『それから、地上から侵略者が現れました。吸血鬼一匹と人間三人、妖精三匹のおとぼけチームです。八意様はその侵略者を予期していたようですが、そのチームについて何か知っていたのでしょうか?』……っと、あと何を書いておこうかしら? うーん」 “‘然后,来自地上的侵略者出现了。是吸血鬼一只和人类三名、妖精三只的装傻小队。八意大人似乎预料到了侵略者,关于那个小队知道什么吗?’……接下来写点什么呢?嗯。”
  私は、私を介抱してくれた巫女の事を思い出した。結局、さっきの戦いの場では巫女は私に気づく事は無かった。それはそうだろう。地上に降りた時は地上の兎に見えるように変装していたのだから。   我回想起照顾过我的巫女。结果,巫女在刚才的战场上没有认出我。那也是当然的。因为我在降落到地上时伪装成了兔子的模样。
  巫女は不正な手順で神様を呼び出していたという、月での騒動の発端となった人物である。私はちょっと複雑な気持ちであったが『地上にいる巫女に有難うと伝えてください』と書き加えておいた。   巫女是用错误的手续召唤神明,成为月亮上骚动元凶的人物。我怀着有些复杂的心情,加上了“请向在地上的巫女说声谢谢”。
  墨が乾くまで何度も読み返した。我ながら大人っぽい文章を書けたと思う。これなら依姫様が書いた物としても良かったのかも知れない。   我趁墨迹未干时反复读了多次。没想到自己居然也能写出这样成熟的文章。这样的话,或许可以当作是依姬大人写的。
  十分墨が乾いたのを確認し、丸めて紐で縛った。   在确认墨迹干透之后,我把信卷起来用绳子扎好。
  それを持って再び屋敷を飛び出した。   我带着信再次冲出屋子。
  今度は依姫さまの元ではなく、正反対の方向へ向かった。   这次不是朝着依姬大人身边,而是完全相反的方向。
 
  目的地まで大して時間は掛からないだろう。その間、地上に逃げた時の事を思い出していた。   到达目的地应该不会太花时间。其间,我回想起逃往地上时的事情。
  地上は、月とは違い欺瞞に満ちた穢い世界だと聞かされていた。常に嘘を警戒し、他人を信用せず、自分だけを信じなければ生きる事すら難しい。そんな世界だと思っていた。依姫様から本当の穢れとは何なのかを教えて貰うまでは。   我曾听说地上与月亮不同,是充满欺瞒的污秽世界。如果不一直警惕谎言、不相信他人、只相信自己的话,就连活下去都很困难。直到依姬大人教给我什么是真正的污秽为止,我本以为地上是那样的世界。
  月の都が嫌った穢れとは、生きる事と死ぬ事。特に生きる事が死を招く世界が穢れた世界なのだと。生きる為に競争しなければならない地上を穢れた土地、穢土と呼び、月の都を穢れの浄化された土地、浄土と呼ぶ者もいる。   月之都所讨厌的污秽,是生与死。特别是把活着会招来死亡的世界当作污秽的世界,把为了活下去而必须竞争的地上称呼为污秽的土地——秽土。也有人把月之都称为被净化了污秽的土地——净土。
  生も死も無い世界が限りなく美しい。だが何も無い世界が理想というのとも違う。生きる為に他人から搾取したりせず、自分達が生み出した物だけで全ての者の生活が賄える世界が理想なのだと言う。   没有生死的世界非常美丽。但是什么都没有的世界和理想是不同的。不必为了生存榨取他人,只依靠自己所创造的东西就能惠及所有人生活的世界才被称为理想。
  地上は生きる事が最善であるが故に、死の匂いが強くなるのだと言う。その死の匂いが生き物に寿命をもたらす。だから地上の生き物には全て寿命があるのだと言う。   因为在地上活着是最好的,所以死亡的气味才会强烈。那死亡的气味让生物获得生命。所以地上的生物全部都拥有寿命。
  最初に介抱してくれた巫女は、私の事を妖怪兎だと呼んでいた。妖怪とは人間を捕食する怪異の産物だと聞いている。それなのに地上の人間は妖怪でも介抱してくれるものなのかと感心した。穢れの多い地上の生き物なのだから、自分の命を脅かす妖怪が弱った姿で現れたら、その場で始末するものだと思っていた。その後、月の羽衣を奪われそうになったが……。   一开始照顾我的巫女,叫我妖怪兔。听说妖怪是捕食人类的怪异产物。即使如此,地上人还是会照顾妖怪,这让我十分佩服。我本以为她作为污秽的地上的生物,一旦威胁自己生命的妖怪以脆弱的姿态出现,就会当场消灭掉。之后,最然月之羽衣差点被夺走……
  それどころかその巫女は別の妖怪と行動を共にし、月に攻め込んできた。   不仅如此,那名巫女甚至和别的妖怪共同行动,攻到月亮上来。
  もしかしたら、月の都に伝わる地上と現状の地上では、何か大きな差異があるのではないか。地上では妖怪と人間は共存しているのではないか、そんな気がした。   月之都所讹传的地上和现在的地上,可能存在着某种巨大的差异。地上妖怪和人类也许是共存的,我这样觉得。
  しかも、月に攻めてきた吸血鬼部隊。一見リーダーは吸血鬼なのだが、見た感じあの部隊を操っているのは巫女である。つまり人間が神を呼び出し、妖怪を支配していると考えられる。月の都が考えている地上のパワーバランスの地図を書き換える必要があるのかも知れない。   而且攻上月亮的是吸血鬼部队。虽然乍一看首领是吸血鬼,但实际上操纵这部队的却是巫女。也就是说,可以认为是人类召唤出神,支配着妖怪。月之都所认为的地上力量均衡图可能有必要进行更改了。
  だとすると私が再び地上を訪れる時は、あの巫女を頼りにしても良いのかも知れない。月の都の者で固まって地上の人間や妖怪と敵対するよりは、巫女の味方になれば簡単に地上に遊びに行ける、そう考えた。   如果真是这样,我再次访问地上时,也许去拜托那名巫女会比较好。比起月之都的人团结起来与地上人类和妖怪敌对,成为巫女的同伴就可以简单地到地上去玩。我是这样考虑的。
 
「——あら、もしかしてレイセン? また逃げ出してきたの?」 “——哎呀,这不是铃仙吗?又逃出来了吗?”
  何か聞き覚えのある声がした。豊姫様の声だ。   我听到一个熟悉的声音。是丰姬大人的声音。
「え? 豊姫様? 何処にいらっしゃいますか? いや、逃げ出したのではなくて依姫様に仕事を任されまして。って、あれ?」 “哎?丰姬大人?你在哪里?不,我不是逃跑而是被依姬大人委派了工作。奇怪?”
  真っ直ぐ伸びた木。辺りは暗くてよく見えないが何やら不気味な動物の鳴き声が聞こえてくる。周りの景色に見覚えがない。一体ここは何処だろう?   直线延伸的树木。虽然周围漆黑一片,不过却能听到某种诡异的动物鸣叫声。四周的景色没有印象。这里到底是什么地方?
「あのー、ここは何処ですか?」 “请问,这里是什么地方?”
「しっ! もうすぐ面白い事が起こるのよ」 “嘘!好玩的事情马上就要开始了。”
  何者かに襟元を掴まれ木の陰に引っ張り込まれた。   有人抓住我的衣襟把我拉到树丛中。
  そこにいたのは豊姫様だった。他には誰の姿も無い。豊姫様は木陰に隠れ何者かの来訪を待っている様である。しかし、目の前の森に何の動きも見られなかった。   丰姬大人在那,没有其他人的踪影。丰姬大人躲在树丛中等待某人的来访。可是,眼前的森林看不出任何的动静。
「ふぁ~あ、遅いわねぇ、私は退屈してきたわ。何かお酒でも持ってくれば良かったわ、うちで漬けてある千年物のお酒が……」 “呼啊,好慢呢。人家觉得无聊了。要是带点什么酒来就好了。家里腌制的千年老酒……”
「は、はあ。豊姫様は一体何を待っているのでしょう?」 “哈、哈啊。丰姬大人到底在等什么啊?”
「大したもんじゃないわ。でも、依姫は楽しくやってるんでしょうねぇ」 “没什么大不了的。不过,依姬正在愉快地工作吧。”
「今、吸血鬼と人間の小部隊と決闘しています」 “现在正和吸血鬼与人类的小部队决斗。”
「決闘?」 “决斗?”
「ええ、ルール付きの一対一の決闘だそうです。人間の方から持ちかけてきた話ですが、依姫様も無駄な血を流さなくて済むのならそれで、と」 “嗯嗯,似乎是带规则的一对一决斗。虽然是人类一方提出的,不过依姬大人也表示不想造成无谓的流血。”
「ふーん。良いわねぇ楽しそうで。でも、ルール付きの決闘って何?」 “哼。真好呢,很快乐的样子。不过,带规则的决斗是怎么回事?”
「美しく相手を制した方が勝ちだそうですよ」 “就是漂亮地制服对手的—方获胜的样子。”
「へ? 美しく?」 “哎?漂亮?”
  豊姫様は何を想像したのか吹き出した。   丰姬大人不知想到什么,忍不住笑出声来。
「どうかなされました?」    「怎么了?”
「美しくって誰が判定するの? というか人間が思う美しさって何? 美人コンテンストでもやってるのかしら、面白そうだわ」 “漂亮是由谁来判定的?应该说,人类所认为的漂亮是什么?难道在搞美人选拔会吗,真有趣呢。”
「い、いや、言い方悪かったですかね。美しさというか穢い手を使わないで戦うというか」 “不、不,是我表达的不好呢。漂亮是指不使用污秽的手段战斗。”
「ふふふ、判るわ。人間も月の民みたいな事を言うようになったのね……それも誰かの入れ知恵なのかな」 “呵呵呵,我知道的。人类也变得会像月之民一样说话了呢……又或者是某人所出的主意吧。”
「それも……ですか?」 “又或者……吗?”
  豊姫様は、今回の騒動の発端に疑問を感じていたという。   丰姬大人对这次骚动的起源抱有疑问。
  月の都に不穏な噂が流れたのは、依姫とは別の者が勝手に神々を呼び出していたからである。しかし、正式な手順を踏まずに勝手に呼び出す事が出来るなんて誰にでも出来る事ではない。   月之都会流传不安的谣言,是因为依姬之外的人擅自召唤了众神。可是,不通过正式的手续擅自召唤这种事可不是谁都能做到的。
「あ、そうそう。神様を呼んでいたのは地上の巫女でした。どうやらロケットを飛ばす為に住吉三神を呼んでいたらしいです」 “啊,对了对了。召唤神明的是地上的巫女。似乎是为了让火箭飞起来才召唤住吉三神的。”
「へぇ、巫女ねぇ……」 “哎,巫女吗……”
「何か引っかかる事でもありました? 豊姫様」 “有什么在意的地方吗?丰姬大人。”
「神をその身に降ろす事を生業としている巫女であろうと、正式な儀式を行わずに神を呼ぶ手段は持っていないはず……。誰かに間違った方法を教えられたか、それとも悪意を持って……、ふむ、やっぱり私の役より依姫の役の方が面白そうね、ってそう言えば貴方は何故ここに? 逃げてきたの?」 “既然是以降神于己身为职业的巫女,应该没有用非正式的仪式召唤神的手段……是因为什么人告诉了错误的方法,还是带着恶意……呼,依姬的任务果然比我的要有趣呢。说起来,你为什么会在这里?是逃到这里来的吗?”
「さっきも言いましたが、依姫様に仕事を任されまして」 “刚才已经说过了,被依姬大人委派了工作。”
「仕事?」 “工作?”
  私は慌てて手紙を取り出した。   我连忙拿出信。
「八意様に封書を託された私に、今度は私が八意様に手紙を書いて渡せと。その後、賢者の海に行けと言われて来たのですが……まさか賢者の海に豊姫様がいらっしゃるとは思ってもいませんでしたが」 “我曾被八意大人委托送信,这次她命令我给八意大人写信并送回去。我被指示去贤者之海所以来到这里……没想到丰姬大人居然会在贤者之海。”
「え? 八意様に手紙ですって?」 “哎?你说给八意大人送信?”
  豊姫様は私の手から手紙を奪うと、さっと目を通した。笑顔を見せたり苦い顔をしたりしながら読んでいた。私は作文を添削される気持ちで何やら恥ずかしかった。   丰姬大人从我手中夺走信,草草浏览起来。她时而微笑时而皱眉地读着信。我感觉好像在被修改作文般,有些不好意思。
「ふう、何という稚拙な文章でしょう。まあ兎は学が無いから仕方が無いですが」 “呼,多么幼稚的文章啊。不过兔子才疏学浅也没办法。”
  私は顔が熱くなった。   我的脸变得通红。
「この様な恥ずかしい手紙では、私がお師匠様に渡す訳には行きません。恥ずかしいからね。レイセン、貴方の手で直接お渡ししなさい。」 “我可不能把这种丢人的信交给师父,太羞耻了。铃仙,请你亲自送过去。”
「あ、はい。でもどうやって……、というかここは一体」 “啊,好的。但是要怎么做……还有这里到底是?”
  簡単に月と地上を行き来出来る者は殆どいない。月の羽衣があれば誰でも行き来出来るが、多少時間と危険を伴う。だが豊姫様は特別だった。   几乎没有人能简单在月亮和地上往来。虽然有月之羽衣的话谁都能做到,但是多少伴随着危险和需要时间。可是丰姬大人是特别的。
  豊姫様は海と山を同一視できる能力を持つ。その能力は月の海と地上の山を結び、同じ場所とする事も出来るのだ。つまり大部隊を連れて一瞬にして地上に行く事が出来る数少ない月の民である。月の使者のリーダーとして相応しい人物であった。性格はともかく。   丰姬大人拥有把海和山视为同一的能力。那个能力可以把月之海和地上的山相连接,变成相同的地点。也就是说,她是可以带着大部队一瞬间前往地上的少数月之民,是配得上月之使者领导的人物。性格暂且不提。
「この私と一緒に、これから起こる事を見ていれば良いのですよ。さ、ワクワクして」 “和我一起目睹将要发生的事就行了。来,兴奋起来吧。”
「何が起こるのか非常にドキドキしますが」 “我的确对会发生什么非常感兴趣。”
 
  辺りは驚くほど暗く、視界は悪い。何やら不気味な遠吠えのような声も聞こえてくる。それに何故か酷く冷える。   周围一片漆黑,视野很糟糕。更重要的是,还能听到诡异的远吠声。而且不知为何寒气逼人。
  美しさと派手さを競っている、依姫様と吸血鬼一行とは正反対のおどろおどろしさに、私は酷く緊張した。依姫様が戦っていた場所は、一見華やかで騒がしい雰囲気であったが、今考えると相当静かであったのかも知れない。そう思うほど、今いる場所は木々がざわついている。音量だけで比べれば今の方が断然静かだと思うのだが……。   与竞争着优美和华丽的依姬大人与吸血鬼一行正好相反的惊奇感,让我异常紧张。依姬大人战斗的地点,虽然乍一看是华丽而嘈杂的气氛,但现在想想,可能非常的安静。我现在所在地点的树木沙沙作响,让人甚至有了这样的想法。尽管只比较音量的话,现在这边应该绝对更加安静……
  これから一体何が起こるというのだろう。   之后到底会发生什么呢?
  豊姫様に訊いてもはぐらかされてしまうだろう。それに今はとても訊ける雰囲気ではない。   就算询问丰姬大人大概也不会告诉我吧。再说现在也实在不是可以去打听的气氛。
  ただ餅を搗いて歌を歌って暮らしていた数ヶ月前のあの頃が懐かしい。   只是几个月前捣年糕唱歌的生活好让人怀念。
  あの頃はこんな吐き気がする様な緊張をする事も、自分の身を守らなければならない恐怖を覚える事も無かったのに。今頃は餅を搗き終わって、仲間とお酒を呑みながら、くだらない愚痴を言ったりしてぐっすりと暖かい布団で寝られただろう。   那时既没有像这样紧张到胃痛,也不知道必须自己保护自己的恐怖。这时应该已经结束捣年糕了吧,和同伴边喝着酒边发着无聊的牢骚,或者在暖和的被窝里呼呼大睡了。
  愚痴を言い合う事はただの不満を吐き出す事ではなく、本当は幸せな事だったのだろう。   牢骚争吵不是单纯的吐出不满,其实是很幸福的事吧。
  やはり自分の仕事から逃げ出した事が全ての元凶だったのか。逃げ出した事で私の運命は大きく変わった。刺激を求めない私としては、この変化は有り難くなかった。   果然从自己的工作中逃离是所有的元凶吗?因为逃跑让我的命运发生了巨大的变化。对不追求刺激的我来说,这变化一点都不让人高兴。
  しかし、もし地上で八意様に出会って月に送り返されなかったとしたら、私は何をするつもりだったのだろう。何が出来たのだろう。   可是,如果没有在地上遇到八意大人而被送回月亮的话,我打算做些什么呢?又能够做什么呢。
 
  レイセン。今は私の名前だが、これは元々綿月家に使えて[3]いた兎の名前だという。   铃仙。虽然现在是我的名字,不过这原本是绵月家兔子的称呼。
  そのレイセンは地上へ逃げ出し、そして消息が不明になったと言われている。   听说那个铃仙逃到地上,然后就音信全无。
  しかし、我々月の兎には特殊な能力がある。月の兎同士、どんなに離れていても簡単な意思疎通なら出来るのだ。大きな耳は別の兎の念を受信する為にあるのである。勿論、正確な会話が出来る訳ではなく、どちらかと言うとみんなが普段考えている事が風の噂で耳に入ってくる、というレベルであるが。   不过,我们月兔有特殊的能力。月兔之间无论相隔多远,都能做到简单的意思沟通。大大的耳朵是为了接受其他兔子的念波而存在的。这当然无法正确的交谈,只能说是大家平常所想的事如风闻般传进耳中的程度。
  その風の噂では、レイセンは八意様に捕らえられて自由を失っているという事らしい。   根据那风闻,铃仙似乎被八意大人抓住失去了自由。
  しかし、私は確信している。   可是,我确信。
  あの八意様は逃げてきた月の兎を捕らえたのではなく、手厚く保護しているのだと。   八意大人不是抓住逃跑的月兔,而是在谨慎地进行保护。
  浅慮な私ですら無事に月の都に戻り、こうやって仕事を頂けたのは全て八意様のお陰である。   考虑肤浅的我能平安回到月之都,像这样获得工作全都多亏了八意大人。
  そう考えた時、もう一度手紙を書き直したくなった。レイセンの事をよろしくお願い致します、と。   这样一想,让人不禁产生把信重写一遍的念头。写上铃仙的事就拜托了。
 
  風が止み、冷えた空気が凍り付いた。   风声停下,冰冷的空气被冻住。
「来たわ」 “来了。”
  豊姫様の小さいが、嬉しそうな声が聞こえた。   丰姬大人小声却又高兴地说道。
  豊姫様の目の先を見た。   我朝丰姬大人的视线前方望去。
  そこには月では見慣れぬ一匹の獣の姿があった。   那里有一只在月亮上没见过的野兽身影。

注解

  1. 这里是一个语法错误,“中てられて”才是正确的用词。
  2. 住吉三神:《古事记》中记载的是日本神话中的三位海神,分别为“底筒之男名”、“中筒之男名”和“上筒之男名”。
  3. 这里是一个语法错误,“仕えて”才是正确的用语。
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